神戸地方裁判所での強姦事件無罪判決について、3月2日、大阪高等検察庁、神戸地方検察庁を訪問し、控訴を求める要望書を提出してきました。

2011年2月28日

神戸地方検察庁
吉田統宏 検事正 殿
小寺哲夫 次席検事 殿

不当判決の控訴を求める要望書


 高校生のときに母親の内縁の夫から受けた強姦事件で、神戸地裁が2月22日、「抵抗することが著しく困難だったとは言えない」として無罪判決を言い渡したことを報道によって知った私たちは強い衝撃と憤りを覚えました。被告の弁護士は「起訴自体が不当であった」とコメントしていたということですが、私たちは神戸地検が母親の内縁の夫からの強姦という性的虐待事件を起訴したその判断を強く支持したいと思います。残念ながら神戸地裁は性暴力被害の実態への無理解と被害者の恐怖に対する想像力のなさによって、被告を無罪とする不当判決を下しましたが、神戸地検におかれまして被害者の声に真摯に耳を傾け、速やかに控訴を決断していただきたいと要望いたします。以下、神戸地方裁判所の無罪判決の問題点について述べます。

 報道によると、被害者は加害者に対して「虐待によって極度の恐怖心を抱いていた」と証言しています。しかし、奥田哲也裁判長は、加害者と被害者が上半身裸で一緒に写っている写真があることや、2人で外出し買い物していたことなどから「(男性に)恐怖心を抱いていたという長女の供述の信用性には疑問が残る」として無罪判決を下したということです。

 この事件のように父親(実父、継父、母親の内縁の夫)や祖父、おじ、兄弟などから性暴力被害を受けた場合に、被害者はその場から逃げることはできません。身体的な暴力や脅しが加えられ、逆らったらどうなるかわからない、逆らってもどうしようもない、という状況にあることも多いのです。また、経済的にも逃げられない状況があります。性暴力を受けないために高校生が一人で家を出て生活していけるというのでしょうか? 結果として性暴力被害を避けることはできないのだという一種のあきらめのような状態になることも少なくありません。こういったいわば心理的な監禁状態におかれた状況での性暴力は、加害者が加害行為を加える際にナイフを突き付けたり、殴る蹴るの暴行を加える必要はありません。

 心理的な監禁状態におかれた被害者は加害者を怒らせるようなことはできません。笑顔で親密そうに写真に写ったり、一緒に仲良く外出することも何も不思議なことではないのです。写真を撮るときに不快な顔をすれば何をされるかわからない、外出先でも楽しそうにふるまわなければ相手が機嫌を悪くしてしまう、など外から見れば被害者なのになぜそんなふうにふるまえるのか理解できないような行動も、被害者にとってはそのときを生き延びるための精一杯のサバイバル行動であったと認識する必要があります。また、継続した性暴力被害の被害者は被害時に「解離」とよばれる精神症状になっている場合もあります。まるで被害にあっているのは自分ではない、というように感覚や感情を自分から切り離すことで、苦痛でたまらない状況を生き延びる防衛策なのです。ですから被害にあっていても不快そうな顔も見せず、相手の要求に応えて笑顔で対応することもできるのです。

 性暴力被害はこういった顔見知りの相手からの被害が多いという現実も認識しておく必要があります。内閣府が平成20年に全国の男女5000人を対象に行った「男女間における暴力に関する調査」によると、女性の7.3%(123人)が「異性から無理やりに性交された経験がある」と回答していますが、その加害者は「よく知っている人」が61.8%、「顔見知り程度の人」が13.8%で、合計すると実に8割近くが面識のある人という結果が出ています。そういった面識のある相手からの被害には、通常「暴行・脅迫」を用いられることは少なく、被害者も「抵抗」していないようにみえることの方が一般的なのです。

 一方、刑法177条の強姦罪には「暴行又は脅迫を用いて」という規定があり、その解釈については「抵抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫」が必要とされています。つまり、現行の強姦罪の規定や解釈は、性暴力被害の実態に全く対応できていないということです。

 この判決が認められてしまえば、圧倒的な力関係がある中で、女性はどんなに怖くても死ぬまで抵抗するか、それができなければ性的な侵害を受けても我慢しろということになってしまうのではないでしょうか。

 女性の意思を無視した性的な侵害は犯罪です。たとえそのときに明確な「抵抗」ができなかったとしても、被害者が責められるべきではありません。被害者が生き延びるために取った行動を理由にして、被害者としての認定を退けることは、社会が被害者の生きる勇気を否定してしまうことになります。

 この神戸地裁の不当判決はこの事件の被害者を始めとする、声を上げられなかった無数の性暴力被害者に対して与える影響は甚大なものがあります。私たちはこれをこのまま見過ごすことはできません。

 この不当判決を確定させることなく、彼女の失われかけた人権を回復する機会をもう一度与えることができるのは神戸地検の判断にかかっています。控訴審では、性暴力被害者の心理状態や対処行動について理解のある専門家の証言を立証活動で採用するなど被告を有罪にできる見込みは十分あるはずです。性暴力被害者が誰からも侵害されずに安心して安全に生活することができる基本的な人権を守るために何卒ご尽力いただきますようお願いいたします。






1.判決を確定させず控訴してください。


性暴力禁止法をつくろうネットワーク
呼びかけ人 
戒能民江(お茶の水女子大学)
近藤恵子(NPO法人全国女性シェルターネット)
鄭暎惠(大妻女子大学)
平川和子(FTCアドボカシーセンター)
横田千代子


【参考;日刊スポーツ記事】

「強姦で起訴の男性無罪「抵抗困難と言えず」」@日刊スポーツ/共同通信
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp0-20110222-740076.html

 内縁関係にあった女性の長女に性的暴行を加えたとして、強姦(ごうかん)罪に問われた神戸市の無職の男性(42)に神戸地裁は22日、「抵抗することが著しく困難だったとは言えない」として無罪判決を言い渡した。求刑は懲役13年だった。
 弁護側は「性行為はしたが、脅迫などはなかった」として強姦罪に当たらないと主張していた。
 神戸地検の小寺哲夫次席検事は「判決の内容を精査した上、控訴するかどうか検討する」としている。
 奥田哲也裁判長は判決理由で、男性と長女が上半身裸で一緒に写っている写真があることや、2人で外出し買い物していたことなどに触れ「(男性に)恐怖心を抱いていたという長女の供述の信用性には疑問が残る」と指摘した。
 神戸地検は、男性が2005年11月?07年2月、神戸市西区の自宅で当時高校生だった長女に計4回の性的暴行を加えたとして起訴していた。男性の弁護人は「そもそも起訴が不当だった」としている。(共同)
[2011年2月22日12時23分]


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